嫌だ。何処にも行きたくない。どうせ、どこでも、だれでも、私を受け入れてくれることなんてあるはずが無いのだから。
新しい場所で、新しい悪意に触れることになるだけだ。
それなら、この薄暗い塔でひとりひっそりと過ごしていく方がずっといい・・・
再びへたりこんだ私の肩を兄様がそっと抱いた。
「まだ何も決まったわけじゃない。突然結婚だなんて、嫌だろう。僕も何処ぞの骨とも知らない奴に妹をやるなんて嫌だからね。謁見の間へは、一緒に行こう」
それだけを聞けばどれほど嬉しい言葉なのだろう。
・・・どこまでが、本心か、わからないけれど。
頷くことも首を振ることもできず固まっていると、こんこんとドアを叩く音がして、程なくドアが開いた。
「姫様、お目覚めでしょうか、って―――カムルレニティス様!?貴方様が何故こんなところへ!」
リーンの大きな声が部屋に反響する。
ああ、煩い。
それに、“こんなところ”って。・・・あは。
笑ってしまいたいけれど、表情は動かない。
僅かも反応をしない私の隣で、激昂したように兄様が声を張る。
「リーンさん、こんなところとは、どういうことですか?・・・僕はアムリィに用事があってきたんですよ」
睨みつける兄様に、リーンが体を震わせたのがわかった。
「も、申し訳ございません・・・っ!」
彼女の目にはさぞかし素晴らしい、“兄”に映っているのだろう。
異端の、かわいそうな妹を庇う、素晴らしい兄に。


