開け放されたままの扉が胸の中を引っ掻くような、耳障りな音を立てる。
「っ、はあ・・・っ」
その音に眉をひそめながらも、私はいつの間にか止めていた息を吐き出した。
呼吸もまともにできていなかったようで、そんなことにすら気づかなかったことに苦笑した。
「かえろう」
あの、塔に。
半ば自分に言い聞かせるように呟いた言葉は誰もいなくなった庭園にはっきりと響く。
今日は、あまりにもたくさんのことがありすぎた。
責めるみたいな闇色の紫が、脳裏にこびりついて離れない。
それを振り払うように、私は大きく首を振った。
私の動きに追随して巻き付くように動く白の髪が鬱陶しい。いつもはこんなこと、気になんてならないのに。
帰ろう。あの、私の居場所に。
どうせ、あんなこと言ったって、また会うことはないんだから。何も変わらない真っ黒な毎日が続いていくだけ。
・・・この感情は何だろう?
何も変わらないことに対する安心?
それとも―――何も変わらないことに対する落胆?
「まあ、どっちでも、いっか・・・」
毛玉みたいにぐしゃぐしゃに絡まり切った思考を放り投げて、私は独りごちる。
そして、おぼつかない足取りを自覚しながらものろのろと歩みを進めた。
立て付けの悪い扉を後ろ手に閉めて、まぶたで黄金の瞳を隠す。


