そのまま出ていくものだと思ったけれど、意外にもヘリオトロープはその場で立ち止まる。
柵に片手の指を絡めたまま、少年は肩越しに振り返った。
「な、なに・・・?」
予想もしていなかった行動に、私は届くか届かないかくらいの小さな声で問いかける。
ヘリオトロープはその深紫の隻眼を不機嫌そうに微かにそばめて、口を開く。
「・・・また会うことになるだろう、俺達は。
俺はお前なんかに会いたくはないが、お前が“籠り姫”だと言うなら仕方が無い・・・」
私を見据える紫の闇がぐっと濃度を増した気がして、私は思わず身震いする。
私は何か言おうと口を幾度か開閉するけれど、結局口を閉ざした。
・・・会うことになるって?きみは一体、何者なの?
思っていることはいろいろあるけれど。
何も、言えない。
彼が抱えているものは、私なんかが察すことのできるものではないと、わかったから。
だって、こんな、体がすくむほどの闇―――
微動だにしない私を一瞥して、ヘリオトロープは表情は変えないまま鼻を鳴らした。
そして、ぎぃ、と大きな音をたたせて庭園の柵を押し開ける。
「・・・『また』な」
自分で発したその言葉に自嘲気味に顔を歪めて。
紫の少年は闇色の外套を翻し、背景に溶けた。


