そこまで作業を終えてから、やっと少年は視線を上げて私の瞳を覗き込んできた。
「なにって。これは、俺の仕事だから」
「・・・仕事?」
もはや眉間に深くしわが刻まれるのを隠そうとも思えない。
半ば睨みつけるような私の視線に溜息をつき、少年は外套を軽く払いながら立ち上がって私の目を見据えて頷く。
「そうだ」
彼は一度だけちらりと片手に持った瓶を見た後、私に視線を戻して言った。
「俺の名前は、ヘリオトロープ。
・・・宮廷庭師だ」
その言葉に私はこっそりため息をつく。
駄目だ。聞けば聞くほどわからないことが増えていくばかり。
「でも、宮廷庭師って言ったって、きみ、軍に入っているんじゃ・・・」
小さく首を振りながら呟いたほとんど独り言のように虚空に溶けた声に、少年―――ヘリオトロープはやはり反応しない。
瓶を外套の中に入れ直し、今度こそ完全に背を向けて出口の方へ歩いていく。
私はそれをぼんやりとただ眺めるしかなかった。
気になることは沢山あるけれど、何を聞いたら良いのかわからないし、答えてくれるとも思えない。
このヘリオトロープという少年との出会いは、何の変化もない灰色の日々を過ごしていた私にはイレギュラー過ぎて、咄嗟に頭が回らない。
また、会うことはできるのだろうか。
せめて、もう少し、考えをまとめる時間があれば―――
焦る私の視線の先で、ヘリオトロープはかしゃりと庭園の出入口の柵に手をかけた。


