少し意識して息を吸い込む。
「あのっ!」
声を張った私にようやく少年は顔を上げた。
「・・・なんだ?」
少年の仏頂面が不機嫌そうに歪んでいるのを見て少したじろいだものの、私は意を決して再び口を開く。
「えっと、その・・・さっきのこと、黙っていて欲しいの。もちろん、ただでとは言わないから」
さっきのこととは当然、私が唄っても能力が発動しなかったことだ。
少年は私の言葉に少しだけ首をかしげた後、理解したように、ああ、と小さく声を発した。
「あれか・・・誰にも、言わない」
今度は私が首を傾げる番だった。
「もちろん?でも、さっきはあんなに、」
あんなに・・・脅してきたのに。
訝しげな私の視線に、少年は微かに眉間にしわを寄せ、肺の中の空気を全て吐き出すかのように一度だけ大きく息をついた。
「それは、知らなかったからだ・・・お前が、“籠り姫”だと」
どこか肝心なところをぼかすように喋る少年にもどかしい感情がむくむくと膨れ上がる。
「私が籠り姫だったらなんだって言うの?」
「それは、言えない」
「言えないって、どういう・・・!」
「ただ、」
激昂しかけた私を冷静な声が遮った。
「一つだけ確実にお前に言えることは・・・俺にはお前に対する敵意はもうないということだ。」
全くそうは思っていなさそうな口調で少年は不服そうにぼそぼそと喋る。
「そして、お前のことは言わないんじゃなくて、正確には、言うはずがない、だ」


