黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う


ヘルが後方に翔び上がりながら、私の声に不敵に笑った。

「・・・ああ」

それだけを呟いて、首元に手をやる。そしてそのまま、外套を剥ぎ取った。彼の動きを強く抑制する、戒めであった黒闇の外套を。

もう彼は、それを取り去る術を知ったから。

腕を振り払い切った彼の姿を見て、マリアが目を見張った。

「何、あんた、それ・・・っ!」

ヘルはその言葉に答えず、ただ足を踏み切った。崩れかけた足場を踏みしめ、翔ぶ。

マリアが攻防が逆転したことに気がついて、咄嗟に石の怪物の後ろに身を隠した。でもそれはもう―――意味をなさない。

「―――シッ!」

ヘルは勢いそのままに、特に力を入れるというわけでもなく、体を捻って斜めに剣を切り上げる。

先程まで斬っても蹴っても僅かな破片を零すだけで微動だにしなかった石の怪物は、嘘のように呆気なく崩れ落ちた。

その向こう、ヘルが翔ぶ先に、顔を強ばらせるマリアが防御することも忘れて怯えをはっきりと貼り付けて体を仰け反らせている。

ヘルは容赦無く襲いかかると、その肩を掴み、すっかりがたがたになった石の床に強く押し付けた。

「―――ひっ!?」

身をよじって抵抗しようとしたマリアの首にヘルが刀身を沿わせる。その冷たさにマリアは緋い瞳を見開いて、気がふれたように、は、は、と零した。

「そのまま斬ればいいわ―――この、化け物!」

唾を撒き散らしながら放たれたその口撃に、ヘルは全く動じない。

「化け物・・・か。そんなことは俺が一番わかってる。良いんだよ俺は化け物で。それでも傍に居てくれると、そう言ってくれる奴がいるから」

そう言ってヘルはちらっと私に視線を向けてきた。その唇ははっきりと弧を描いていて、私も微笑んだ。

その様子を見てマリアが憎々しげに呻く。

「・・・早く、斬りなさいよ」

そんなマリアに顔を近づけて、ヘルはひとこと―――

「は?」

と。そう言って。あっさりと身体を離した。