変わらないその姿を見てきゅっと締まる喉をどうにかこじ開けて、声を絞り出す。

「・・・『貴方に恵みの微笑み、を』・・・」

震える語尾が虚空に消える。

何も―――起こらない。

光の粒子が舞うことも、風の渦が生まれることも、ましてやこの小さな花が生き生きと背を伸ばすことなんて―――ない。

「・・・・・・あは」

自分の口から驚く程乾いた笑いが零れる。

わかっていた。私が唄っても何も起こるはずないことなんて。

Boost。ヒューマンなら必ず備わっているはずの能力。

それなのに、私にはその力が、無い。

最初に気がついたのはいつだったのだろう。初めて唄を唄った時?

最初にそれがありえないことだと気づいたのはいつだったのだろう。兄様のBoostを初めて見た時?

・・・退屈で億劫な日々は真っ黒に塗り潰されているようで、いったいいつ頃だったのかは思い出せないけれど。

この力が無いと気づき、それがどれほど奇妙なことか理解した時、私は全てを悟った。

このセカイはあまりにも不条理で。
決められた枠からはみ出した異端は、許されない。誰にも、受け入れられない。


誰にも、愛されないのだ、と。

だから、異端である私は、固く口を閉ざす。
そしてこのセカイへのせめてもの抵抗として、たった独りで生きていく。