熱を滲ませて炎のように揺らぐその瞳だけを、ずっと見つめていることなんてできなくて、私は口を開く。
「なに、ヘリオトロー・・・」
でも、彼の名前を最後まで呼ぶことはできなかった。
時間にして、ほんの一瞬。
それでも私には、永遠にも感じられる、長い間。
ヘリオトロープの深紫が有り得ないほど近づいて、細く細く、細まって、彼の柔らかな花弁のような髪が、少しだけ私の頬にかかって。
そして彼の唇が、私のそれに、そっと、触れたから。
駄々をこねる私の口に、確かな熱を伝える。黙れと。いい加減逃げるのはやめろと―――そう相変わらず、無愛想に囁いている。・・・熱く、熱く。
「ちょ・・・ん・・・」
離れて、もう一度、また一度。触れる。
経験したことのない柔らかさに、視界が歪んだ。
「あ・・・」
思わず腰が逃げた私を、ヘリオトロープが抱き寄せるようにして止めた。腰に指先が触れて、それだけなのに、まるで電流が走ったようにびくりと体が震える。
「なあ―――」
彼は言葉と共に唇をなぞるように柔らかく食むと、そっと顔を離す。
「これで、信じたか?」
私には、もう彼の言葉を否定することなんてできなかった。
ヘリオトロープは微動だにできない私の唇に残る熱をもう一度なぞる。
「・・・初めて、守りたいと思うものが、できた。
だから言えよ。助けて、って。そうすれば俺が絶対駆けつけるから。もう何も、お前は心配しなくていい」
とても聞き流せはしない、無責任なその言葉。私はばっと顔を上げた。
「う、嘘だ。そんなの信じられるわけ・・・!」
私は今までずっと独りぼっちだった。そう、ヘリオトロープと出会うあの瞬間まで。
でも、だからって、そんなことどうして言い切れる?
「・・・ねえ、ヘリオトロープ。ちゃんとわかってる?私、ハーフエルフなんだよ。異端なんだよ、怪物なんだよ・・・!」
きっときみも、いつかは私の側からいなくなってしまうに違いない。私が、恐ろしい存在だから。
かたかたと、体が震えるのがわかった。
・・・ああ、私は本当に馬鹿だな。自分で言っておいて、相手の反応に怯えるだなんて。


