「・・・いいか?」
ドアの陰からそんな声が聞こえて、私はびくりと肩を跳ねさせる。
私は大きく深呼吸をして、小さく、いいよ、と呟いた。
その後すぐに、紫の髪が覗いて少年の動きに合わせてふわふわと薄暗い部屋に映えて浮かぶ。
暗い部屋に驚いたように足を止めて灯をつけようとするヘリオトロープに、私は声を上げた。
「いい!・・・つけないで」
今部屋が明るくなったら酷い顔がばれてしまいそうだ。見られたくない。
それに、ヘリオトロープの顔をちゃんと見られる自信が無いから。
ヘリオトロープは私の声にぴたりと手を止めて、下ろした。それから、一瞬だけ躊躇した後、こちらに向かって歩いてくる。
こつん、と彼の靴が床を叩く度、逃げだしたい衝動に駆られるけれど、私の体は深くベッドに沈みこんで動かない。
とうとう、ヘリオトロープが私の目の前まで来て立ち止まった。私の視界は彼の黒い外套に塞がれる。
「・・・もう、逃げないか?」
頭上から降ってくる静かな声に、私はただただこくりと頷いた。逃げようにも逃げられないようにしているのに。ずるいなぁ、きみは。
ヘリオトロープが無駄のない動作ですっとしゃがんだ。まるでお姫様に跪く騎士のように、片膝を立てて、私に視線を合わせる。
紫の隻眼が私を捕らえた。もう、なんどこの光に私は魅入られたのだろう。しっかりと私を掴んで、離さない。
ヘリオトロープは私の瞳を見据えたまま、そっと片手を伸ばした。伸ばして、私の頬に、触れた。
「なぁ、お前はなんで全部、ひとりで抱えようとするんだ」
じわりと、彼が触れた場所から思わず身震いするようなあたたかさが広がって戸惑う。そのあたたかさが私の口を緩めてしまいそうになって、私は慌てて唇を噛んだ。


