「さあ、帰ろう―――私の居場所へ」
私の声に呼応するように、白髪が煌めいて、広がった。
私はそれをフードの中に深く深く押し込めて、確かな足取りで歩き始める。
*
もうすっかり明るくなった街道。
来た道を思いだしながら歩いていると、宿屋の前にうろうろ歩き回る人影が見えた。
私はそれを見るなり、ほとんど走るみたいに近づく。
足音に気がついたヘリオトロープがばっとこちらを振り返った。
「お前、なあ!」
珍しく柳眉を逆立て、怒りを露わにこちらを睨んでいる。
いつもの無表情よりはいいけれど、表情を出したと思ったらそんな顔だなんて。なんだかな、という感じ。
だから私は、そのまま足を止めずに腕を伸ばして彼の胸に飛び込んだ。
ヘリオトロープが物凄くびっくりしたように、ただそれでも腕の中にしっかりと私を受け止める。ふわりと大好きな匂いがする。
・・・でもね、ヘリオトロープ。匂いだけじゃないの。“お願い”を遂行しているだけのきみにはとても言えないけど。
私はきみが、大好き、だよ。
「ただいま」
だからね、その代わりに、この言葉を言わせて。
もう今なら、何も私の表情を遮るものはない。ヘリオトロープの顔を見上げて笑うと、彼は何故か激しく紫の隻眼を泳がせた後、はっと我に返ったように私の手首を掴んで急に体を引き離した。
「・・・お前な、本当、何やってんだ!入れ違いにでもなったら困るから探しに行けなかっただろうが・・・」
「心配させたね、ごめん」
「・・・は?そんなことひとことも言ってないだろ」
「だって、手のひら汗凄いよ」
また無表情に戻っていたヘリオトロープが、私のその言葉を聞くや否やばっと私から手を離す。
無意識だろう、そっ、と手を外套で拭うと、そっぽを向いた。


