何が可笑しかったのか、くすりとメルレアが笑った。
私の視線に気がついて、彼女は手を動かす。
『だって、顔が一瞬で変わるんだもん。
あーあ、いいなあ、私もやっぱり、もう1回だけ、会いたいかなあ』
後になるにつれて文字がどんどん小さくなっていく。
でもそう本心をさらけ出したところで、もうそれが叶わない願いなのは彼女もわかっているのだろう。
マーメイドとヒューマンでは寿命が違いすぎる。彼女が昔だと言っていたのだ。きっと、その人はもう―――
『帰るんじゃなかったの?』
「・・・うん」
メルレアの言葉に頷くも、どうにも足が動かなくて、困る。憐れみとかではない、そうではないけれど。
メルレアがばたりと不機嫌そうに尾を動かしたのがわかった。
『もー、いいの私のことは!
それよりも、今大切な、好きな人の隣にいられることを大事にして絶対に失わないで!
それだけ!じゃあ、またね!』
文字を読むや否や、どん、と強く背を押されてよろめく。
「メルレア・・・っ、ありがとう、またね!」
ぶんぶん激しく手を振ると、それを見たメルレアが海の中から手を伸ばした。
『全部終わったら、皆の説得手伝ってよね。
だから絶対、またここに来て』
素直じゃないけれど、きっと私の行く道を案じる言葉。
私が頷くと、メルレアは瞳と同色のアイオライトのように輝く鱗を朝日に閃かせて海に消えた。
ざぁっと波がおしよせて、彼女の書いた文字も跡形も無く消してしまった。
夢のような時間。何も残るものはない。
でも手のひらに残る、額に残る、そして胸に残るあたたかさが。
私に、先へと進む確かな力を与えてくれるから。


