『そう、私は言わなかった。たった2文字、それだけなのに。そしてもうそれから、彼には2度と会わなかった。
だからね、今、こうして声を失ってしまっているの』
そう書いたメルレアは手を止めて、無意識だろうか自分の喉を何気ない仕草で撫でた。
つまりそれは、以前は彼女は声を出すことができていたということなのか。
でも、マーメイドは口がきけないはずで・・・おかしい、どういうこと?
軽く首を振りながらまとまらない思考をとりあえず脇に避けて、私はメルレアの目を見据えた。
「それが、変えたい過去?想いを伝えたかったって、そういう事なの?」
かなり確信を持っていった言葉だったのに、メルレアはブロンドを激しく揺らして驚くほど強く否定した。
『違う。そうじゃない。
あの時に戻って、私の頬を引っぱたいてやりたいの』
「どういうこと・・・」
メルレアは強い視線で下を睨みつけて、砂を握りつぶしそうなほどの勢いで拳を握っている。
『私は愚かしい。何よりも。
確かに想いを伝えていれば声は失われてなかった。でも、そんな選択肢は最初から存在してなかったんだから。本当は私、多分わかってた。
それなのに。私は。そもそも私があんなことを願わなければ、何も起こらなかった、のに。
私が口をきけなくなったあの日から、仲間達はみんな口を閉ざしてしまった。
私を差し置いて、我々が自由に声を発するなど考えられない、って』


