黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う


どぷり、と音がして海が盛り上がった。そうとしか形容できない。海の中から一塊の水がまるで生き物のようにこちらに手を伸ばす。

生暖かいものが私の体を包んだ。いつかも感じたこの感覚。あの時私とヘリオトロープを抱え上げた、あの液体の感覚。

視線を巡らせても、魔跡らしきものはどこにも浮かんでいない。

やっぱり・・・私じゃない、まだ私は何もしていないのに。

何もしていないと言うよりは、何も起こらなかったの方が正しいような気はするけれど―――

海の手にすぐ波のそばまで引きずられて踏ん張りきれずにへたりこむと、海の中からまたこぽりと音がして私の目の前で海が持ち上がって、割れた。

波の狭間から現れたのは半透明のドーム。

それが波の外に出るとともに溶けるように霧散して、その中から輝くブロンドが覗く。

「だ、誰・・・?」

身動きのとれない私に、海の中から現れたその人物は目線を合わせて笑う。

海面を思わせる鏡のような藍色の瞳が私の黄金を覗き込んで、ああ、と私は口を覆った。

波間から時折見えるのは、彼女の種族を決定的にする月光を照り返して鱗が輝く尾。

彼女はすらりと白く細い人差し指を伸ばして、砂浜に文字を書く。

『メルレア』

そこでちらりと悪戯っぽい視線を私にやると、その下にまた文字を続ける。

『忘れちゃった?』

私はぶんぶんと首を振った。ああ、もう本当に、私は迂闊すぎる。

でも・・・まさかこんなところで出会うことになるなんて思わなかったのだ。