黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う


「まあ・・・考えても仕方が無い。運が良かったと思って、とりあえずはここに泊めてもらうことにしよう」

そう言って無造作に2人分の料金の硬貨をカウンターに置くと、物を踏まないようにしながら階段を上っていく。

律義にお金を払っても、もしかしたら店主は当分帰ってこないのではないだろうかという言葉は飲み下す。

そんなことは彼だって重々承知しているはずだ。それでもこんなことをするのは、正体のわからない何かの気配に彼もやはり戸惑っているからなのだろうか。

「・・・うん」

私も頷くと、何度か転びかけながらその後を追った。そのまま階段を上って上のフロアに行ってみても、部屋を借りている者はやはり誰もいなかった。

予想を裏切らないその様子に、遂には2人とも言葉を無くす。

どことなく重い雰囲気の中、私は左へ、ヘリオトロープは右の部屋に入ってドアを閉めた。


私は部屋に入ると、ベッドに腰を落ち着ける。これもかなりの年代物のようでスプリングが私の体を受け止めてぎしりと嫌な音を立てて軋んだ。

体は横たえることなくそのまま、私は窓の外を見やる。

今日も1日人々の営みを照らした太陽が、地平線の下に潜っていく。

そして、夜の世界の始まりをそっと告げるのだ。

私は太陽の光と入れ替わるようにして目に見えて現れ始めた月の姿を見た。

私を闇に浮かび上がらせる、月。

その輝きに、何故か猛烈に腹立たしくなって。


・・・今日くらいは、隠れずに向かっていこうとしてみたいと。

そう思い立った私は、もう慣れてきてしまった身体中の隅々を走る疼きと背の痛みとを感じながら、ずり落ちてシーツの上に広がっていた白い外套を拾い上げ、深く着込んだ。擦れる背中の異物感が落ち着かない。