黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う


・・・もし襲いかかられるようなことがあったらどうしようか。

と、そんな私の心配は杞憂に終わった。

目に飛び込んできたのは、がらんとした誰も居ない店内。

利用客は勿論、宿屋の店主1人さえも居ない。

カウンターには紙幣や硬貨が散乱し、新聞や広告が投げ出されている。床には色々なものが転がっていて、それを一つ一つ確認することの方が愚かしく思える。

奥にある小さなバーの机にはカクテルがグラスの中に入ったまま揺れているし、賭け事でもしていたのだろうか、カードが扇状に投げ出されている。

現実味を帯びない凄まじい惨状を見て、頭がいっぱいいっぱいで追いつかない。

尋常ではないその光景に、ヘリオトロープも隣で息を呑んだのがわかった。

「どうしたのかな・・・これ」

「・・・わからない。わからないが、何かがあったのは確実だ。」

私の問いに彼も困惑した声で答えながら、比較的近くにあったワインの入ったグラスを手に取った。

「あまり古くなっていないな。これを飲んでいた人物が去ったのはそう昔のことではない。

そもそも、俺達がここを離れてからあまり経っていないのだから、当たり前といえば当たり前だが・・・」

ヘリオトロープが言い淀む。それは逆にそれだけの短期間でこれほどまでの混乱を招くようなことがあるとは思えないということであるからだ。

街の静けさとこの店の様子は無関係ではないように思えた。

何が、あったのだろう。

ヘリオトロープがワイングラスをそっと置いて、それと同時に軽く数度首を横に振った。