理不尽に対する怒りか、不甲斐ない私自身に対する羞恥か、はたまたもっと違うもののためか。足がすくんで動かない。
かぁん、と耳をつんざくような金属音がまた始まっても、私は身動きをとることができなかった。
そんな私の腕をヘリオトロープが掴んだ。
のろりと緩慢な仕草で私が振り返るよりも先に、彼は踵を返して私の腕を引きながら店を出ていく。よろめくようにしてそれに追随する私。
からんころん、と場違いに明るい音色が追いかけてくる。
それでもヘリオトロープは何も意に介さずただ前を向いて進んでいく。その揺れる黒い外套を映して、私の視界が滲む。
1粒だけ堪えきれずに頬を伝って、私はこっそり拭った。
いつだって私の手を引いているのはこの少年。
私がどうにかここまで進めているのは、ずっとこの暖かい手に引かれているから。あの日闇夜を背に私を深紫の隻眼が私を捉えた時から、ずっと。
きっとこの少年なら、ただ目指すべき場所を一心に見据えて、私みたいに迷い悩むことなんてなかったに違いない。
もっと上手く立ち回れたに違いない。
・・・何故、運命に選ばれたのは私だったのだろう。
ねえ、ダイモス。
私は、あなたが望むような存在ではないんだよ。
ただの女の子でしかないんだよ。
行く筋か入り組んだ路地を抜けて、少し開けた通りに出る。
そこに宿屋の看板がぶら下がっている古民家が見えた。
私はきょろりとフードの下から辺りを伺うも、やはり人の気配は僅かもない。
じきに日も暮れるのに。ここまで来ると不気味さしか感じなかった。
警戒しながらもヘリオトロープが宿屋のドアを押し開けた。ぎぃと呻く古い蝶番に私はフードを引き下げる。もう今更顔なんて隠しても意味が無いような気はしなくもないけれど。


