クワオア、と。私が彼女の名前を呼ぼうとしたその瞬間、どくり、と体の奥が脈打った。もう何度も経験したこの感覚。
月が・・・昇ってしまう。
駄目だ。いくら事情を知っているとはいえあの姿を見られたくはない。やっぱり、私は1人で夜を過ごさなくては。
私は無造作にベッドから立ち上がりながら、近くにある椅子に掛けていた白い外套を羽織った。
「私、外で・・・寝るね」
部屋はあると言っていたけれど、新しく使わせてもらうのは忍びない。
それに、どうせ満足に眠ることはできないのだろうから。外で充分だ。
ふらりと部屋から出ていこうとする私をクワオアは止めなかった。
「また、明日」
布団を被ってごろりと向こうを向いたまま発せられたそのもごもごと篭って届く挨拶に、私も背を向けて頷いた。
「・・・うん」
おやすみ、ではなく。
眠れない私には、また明日、を。
◆*◆
俺はなんとなく眠れないまま部屋の中でひとり剣を磨いていた。
自分の一部だと言っても差し支えの無いほどもう何年も連れ立ってきた薄青い刀身が部屋の灯が揺らぐのと比例して煌めく。
そこに歪んで映る自分の顔と、それから傍らに置かれたほぼ真っ二つに砕け割れた1本の剣を見て堪えきれずため息を漏らした。
赤身を帯びた刀身は、今はもう輝きを失っている。
いくら慣れない剣だったとはいえ、戦いの最中だったとはいえ、剣を折るなど。騎士失格だ。
「・・・すまない」
そっとその刀身をなぞりながら呟く。


