私は不思議に思ったけれど、彼は予想していたようでゆっくりと口を開く。
「―――『新しきセカイは開かれん、永い夜の夜明けと共に
我らを導くは、黄金の瞳を瞬かせ、白髪をたなびかせし乙女なり』」
・・・聞き覚えのある詩だった。
私が知っているものとは、少し違っていたけれど。
私が見つめていることに気がついたのだろう、ヘリオトロープがこちらを向いた。
「お前が知っているのはこっちだろう。
『新しきセカイは開かれん
我らを導くは白髪をたなびかせし乙女なり』」
「う、うん・・・太古から伝わる、旅立ちを祝す詩・・・だったような、気が」
ヒューマンなら皆知っている詩だとぎこちなく頷く私にヘリオトロープは、プレティラ様に聞いたんだが、と前置きして話し出す。
「違うんだ、元々は。どういった経緯でヒューマンに伝わったのかはわかりかねるが、これはエルフの古い言い伝えだった。旅立ちを祝す詩などではない―――『セカイのおわりとはじまり』の詩。
つまり、『セカイの崩壊』の詩。
でも本当にただの言い伝えの“はず”だった。黄金の瞳の白髪・・・ヒューマンとエルフの特徴を兼ね備える少女など、生まれるはずは無かったのだから。
プレティラ様が女王に即位してからは、この言い伝えを避けるためにエルフは姿を隠しさえしたのだから、な」
初めて聞くことばかりで頭がくらくらとする。
母様はエルフの女王だったのだ。そして・・・エルフが姿を消した、絶滅したと思われていたのは“セカイの崩壊”という言い伝えを避けるためで。
でも、でも、こうして私は―――エルフの女王である母様と、ヒューマンの王であるオルカイトルムネの間に生まれてしまっている。
言い伝えそのまま、黄金の瞳と白髪を両方兼ね備えた乙女として。


