私は和らいできた痛みに、1度大きく息を吸って空を仰いだ。
背の低い木々の間から覗くのは、少し端の欠けた月。
雲ひとつない闇空のその輝きに、あの声が耳朶に蘇る。
『月夜には気をつけた方がいいですよぉ、姫様』
そう言って嗤った、道化師。
そうか、そういう意味・・・だったのか。
てっきりもうエルフの姿にはならないものだと、私が勝手に思い込んでいただけで。
私は多分、“夜の間だけエルフの姿になる”。
だから朝になれば、羽が消え、耳が戻り、体を覆う光が収まったのだ。
「おい・・・」
ほうけたようにぺたんと地面に座り込む私にヘリオトロープが遠慮がちに声をかけてきた。
私は彼の方にゆっくりと顔を向ける。
「・・・あは、やっぱり、私、またエルフの姿になっちゃった」
ふにゃりと表情を崩す私にヘリオトロープが鋭く息を吸う。
私は笑った。
「ねえ、私って・・・何なのかな。ヒューマンでもないのに、エルフでもない・・・中途半端な存在。何の能力も無い。そんな私には、このセカイに居場所は無いみたいだね?」
できるだけ、巫山戯ているみたいに。
「陽に照らされれば有りもしない力を原因に皆に追われて。夜は見捨てられて、月に囁かれるんだ・・・“お前が心安らげる場所なんてあるわけがないだろう?”って」
意識して口角をあげる。動揺を隠すように、私は黄金の瞳でヘリオトロープを見据えた。


