自分で訊いておいて何だが、大丈夫なはずがないのだ。
数え切れないほどの町の人々との苛烈な鬼ごっこを繰り広げ、10人ほどの男たちと剣を交えた。
極めつけには、背中をもろに海面に叩きつけたのである。
私がこんなにもダメージが少ないのは、ヘリオトロープが全て衝撃を受け止めたからだ。
・・・情けない。守られてばかりで。
私が思わずぎゅっと砂を握りしめたのをちらりと見て、ヘリオトロープは黙って顔を逸らした。
波の音と、段々落ち着いてはきたものの、ヘリオトロープのまだ荒い呼吸だけが海岸に響く。
視線を落とした時、地面に大きく広がっている彼の黒い外套が目に入った。
それは生地の色が更に黒く変色するほど海水を存分に吸い込んでいて、傍目にもずっしりと重そうだった。
私は外套を脱がそうとヘリオトロープの首元に手を伸ばす。それに気がついたヘリオトロープが私の瞳を捉える。
「触るな!」
強い口調に私はびくりと全身を揺らす。
そんなに、これを脱ぐことが嫌なのか。
「ご、ごめ・・・」
「・・・・・・いや、」
ほとんど反射的に口をついた私の謝罪を振り切るように長い沈黙の後頭を軽く振り、ヘリオトロープが体を起こしたので、私は途中で口をつぐんで伸ばしていた腕を慌てて引っ込めた。
ヘリオトロープが立ち上がり、全身についた砂を払って服を絞った。
私に背を向け海を眺めて口を開く。
「もうじきに日が落ちる。幸いこのまま真っ直ぐ海岸を突っきれば森の入口だ。思いもよらず近道をしたな」


