ふわりと鼻先で漂った甘い香りに、私は彼の胸に顔をうずめた。
迫る海面に、頼れるのはこの少年しかいない。
激しい風圧に、花吹雪のようにはためく、紫。
何秒か。何瞬か。
僅かな時間の後、ばしゃぁん!と派手な音と大きな水しぶきを立てて私たち2人の体は海に叩きつけられた。
体の重みに沈んだ海の中、私はぼんやり、ああ、と思った。
さっきの液体の感覚。それは、これと同じだった、と。
でもそれがわかったところで、頭のもやもやが晴れることはない。
海の水がなんであんなところまで・・・
私はそんなことを考えながら、沈みかけていた銀の光を掴んだ。赤みを帯びた刀身を持つ剣。
顔を海面から出し、軽く頭を振る。胸元に握りしめたその存在を認めてほっと息をつくと、後ろから腰に腕が回った。
私が何かを言う前に体がふわりと持ち上がる。ヘリオトロープが私を抱えて海面を蹴って飛び上がったのだ。
勢いは殺されていたものの、どさり、と慣性に従って海岸に投げ出される。
ヘリオトロープが隣に仰向けに体を投げ出してごろりと寝転がった。胸が激しく上下している。
海水に濡れた前髪を額に貼り付け、荒い呼吸を繰り返すヘリオトロープに私は焔の剣を渡そうとしたけれど、彼は受け取るため上げた腕をだらりと下ろした。
その手を腹部に当てたまま、眉根を寄せる。
「・・・大丈夫・・・じゃ、ないよね」
ヘリオトロープがこちらに顔を傾けた。
「大丈夫、に、決まってる、だろ」
呼吸の合間に無理矢理途切れ途切れに言葉を並べるヘリオトロープを制して私はしゃがみこんだ。


