だってどんなに通り過ぎる近くの家から人が飛び出してきたって、すぐに引き離す。
ヘリオトロープの足はそれほどに早い。同じ人間とは思えないほどに、この場にいる誰よりもずっとずっと早い。
場違いな余裕に気持ちの良い風に目を細めていると、硬い音が微かに聞こえてきた。
道路を蹄が叩くような、そんな音。
まさか。
少し向こうの角を曲がって現れたのは、茶色い身体を悠々としならせる数頭の大きな馬。見る見るうちに近づいてくる。
その恐怖に私は背を反りヘリオトロープの顔を正面から覗き込んだ。
「ヘ、ヘリオトロープ、馬が!」
「言われなくてもわかっている!」
苛立った声で返事をしたヘリオトロープが、ぐんとスピードを上げる。
まだ速く走れるのかと驚いたものの、ヘリオトロープも歯を食いしばっていて辛そうだ。
後ろをちらりと盗み見ると、僅かながら距離が遠ざかり始めている。
しかしほっとしたのもつかの間、乗っている人間がその背を鞭で打ち始めた。その姿が再び物凄い勢いで迫ってくる。
さすがに人の足で馬に勝とうと思うのは無謀だったのかもしれない。
「ヘリオトロープ・・・」
意味も無く私が彼の名前を呼ぶと同時に、視界がぱっとひらけた。
町並みが途切れたのだ。つんと潮の匂いが鼻につく。
海沿いの道をそのまま暫く走ったものの、ヘリオトロープの足が止まった。
慣れない土地での鬼ごっこでは余所者は分が悪い。


