粗雑な仕草ながら、やっぱり何故か壊れ物を扱うように優しい腕。それに思わず体温が上がったけれど、そんなことを言っている場合ではない。
ヘリオトロープは私を軽々とお姫様抱っこの要領で抱え上げ、こん、と踵を鳴らした。
行くぞ、ということなのだろう。私も口を開かないまま、遠慮しながらもぎゅっと彼の首にしがみつく。
それを確認してヘリオトロープが膝を曲げぐっとしゃがみこんだ。
次の瞬間には、風を切って走り出す。
さっき私の手を引いていた時とは比べ物にならないほど早い。
頬にばたばたとはためくヘリオトロープの外套のフードが当たって痛かった。
どうか、このまま気がつかれずに通り抜けられますように。
そう握った手は後方から耳朶を打った声に緩んだ。
「おいっ、今凄い速さで通り過ぎていったあいつ、黒い外套を着てたぞ!白い外套を着た女を抱えてる!たぶんあれはもう1人の方だ!間違いねえ、号外に載ってた2人だ!」
ああ、大変なことになってしまった。
大きく響く声に小さな町は見る間に慌ただしさを帯びる。
道に沿って建つ家や店の窓がばたんばたんと次々に開き、そこから人々が顔を出す。
女子供は手に持つ紙と私たちの姿を見比べて驚いたように目を見開き、男たちは咄嗟に僅かな武装をして外に飛び出してくるのが通り過ぎざまに見えた。
後ろから私たちを追う声がいくつも聞こえる。
ヘリオトロープに抱えられている私は必然的に後ろを振り向くことになる。こんなに人がいたのかと酒場以上の驚きを感じながら、それでもどこか冷静にそれを見ていた。


