その言葉を聞き良く咀嚼してから、私はくらりと軽い目眩を覚えた。
「・・・そんな、今そんなことしてる場合じゃないのわかるでしょ!エルフが攻めてきたんだよ、ヒューマンが、セカイが滅びる可能性だってあるんだよ・・・?」
どこにこの感情を向ければいいのかわからずヘリオトロープの外套を握ると、彼はどこか呆れたような顔でちらりと私の顔を見やった。
「今更、何を言ってる。今セカイはな、そんな綺麗事を言えるような状態に無いってことだ。
冷静に物事を判断できるような時点は、もうとうに過ぎた。これから状況は悪化していく一方だ。
まだわかってなかったんだな、お前は。
・・・その渦中にいるのが自分だと、良く理解した方がいい」
ヘリオトロープは黙り込んだ私を見て微かに口の端を不機嫌そうに曲げた後、お金を置いて立ち上がった。
私を放って早足に出口に向かう彼の背中を追いながら、私は不均等に打つ鼓動に深呼吸した。
わかっていると、自分では思っていた。
それなのに、彼に言われた言葉にこんなにも動揺するだなんて。
*
「・・・ここだな」
ヘリオトロープが看板を見上げてある店の前で立ち止まった。
服の形に象られた木の看板が風に煽られて乾いた音を鳴らす。
きっとここが彼の言っていた防具屋なのだろう。
ヘリオトロープが私の方をちらりと見やってドアを開けた。
ついてこいということなのだろう。暗い店内の奥へ足を進める彼を追って進む。


