「・・・実はそうだ。彼女と2人で昨晩この近辺で野宿してたんだが、王都の方から光が上がるのが見えてな。
何かあったんじゃないかという話になった。それで酒場で話を聞けたらなと思ったんだが」
・・・よくもそんなに口から出任せが思いつくものだ。
私はフードの下でこっそりため息を吐いた。
ヘリオトロープの言葉に、マスターが似合わない動作で憂える少女のようにカウンターに肘をついた。
「あー・・・やっぱりあんたらもそれか。酒場は今その話で持ちきりだよ。こんな辺鄙な町だからね。いくらマスターのオレと言えども詳しい話はよく分からないよ。
今朝出た号外なら持ってるよ。今この町の人たちが知ってるのはここに載ってる情報だけさ」
見るかい?とマスターが差出してくれた号外をありがたく受け取る。
急いで出されたものなのだろう、印刷は所々薄れたりずれたりしていて読み辛かった。
ヘリオトロープが熱心に読み耽る横から覗き読んだ限りでは、とりあえず私たちの正体はまだばれていないようだった。
「まずいな・・・」
「何が?」
ヘリオトロープがそれを畳んでマスターに返しながら呟いたのを聞き咎めて私が尋ねると、彼は微かに眉をしかめながら重々しく口を開いた。
「国内で王家―――セルティカ家とルクムエルク家を中心とした分裂が起こり始めているんだそうだ。エルフの存在を隠していたことに対しての反発が原因として大きいらしい。
ヒューマンとエルフの間の抗争ならまだしも、同種族間で争いが始まればあとは泥沼だ・・・恐らく、他種族も干渉してき始める頃だろう。
翌日でこれなら、やはりもうこれから先どうなるかわかったものではないな」


