「母様は・・・?城に残るの?母様も、一緒に来るよね?」
「アムネシア・・・良く覚えておいて。迷ったら、思い出して。
あなたの“力”は、セカイ中を幸せにできるわ」
「母様っ!」
問いに答えない母様にほとんど叫ぶように声を荒らげると、母様は綺麗に笑った。
「あなたは、私の・・・このセカイ皆の“希望”なの」
その笑みは、いっそ可笑しい程綺麗なのに。泣いているように、見えて。
「かあ、さま?」
私の幼い子どもみたいな声が部屋に反響して。
僅かに降りた沈黙を引き裂くように、
近くで、鐘が、ごぉんと鳴った。
私の両手が空を切る。
「・・・え」
さっきまで感じていた母様の温もりが、手の中から消えた。
「えっ、かあさ、ま」
こちらを見る母様の微笑みは変わらないけれど、確かに霞んでいた。
「母様・・・う、そ・・・!」
震える手で伸ばした手は、母様の身体を通り抜けた。
「ど、どうして、母様」
「時間ね。
―――『新しきセカイは開かれん
我らを導くは白髪をたなびかせし乙女なり』
・・・どうか、あなたの行く道に、幸多からんことを!」
母様はそう言って黄金の瞳を細め、桃色の唇で弧をゆるりと描き、にっこりと微笑んで。
手を伸ばして私の頬に触れる、瞬間―――
ぱしゃあん、と音を立てて、その身体が光り輝く粒子になって霧散した。
ごぉんと今日の終わりを告げる鐘が、鳴る。
伸ばしたまま固まった私の腕の先から、熱が生まれて上ってきて。
全身が、熱を堪え切れずに、どくん、と脈打った。


