「確かに、こんな姿で生まれなければ、と思ったことは沢山あった。
どうして私がこんな目に、と思ったことはもっと沢山あった。
でもね。どうしても母様を恨むことなんてできない。だって母様を見るだけでこんなにも・・・ぽかぽかするの」
私はそっと胸に手を当てる。
戻ってきたのは多分、記憶の欠片だけ。幼い日の思い出は、今ではほとんどが埋もれてしまった。
でも、それだけで充分だった。
「この瞳だって、母様と同じだって言うなら、私、好きになれる」
まぶたに触れて微笑むと、母様が頭の上で息を詰めたのがわかった。
心地の好い沈黙が流れる。
しばらくしてそれを破ったのはずっと黙って後ろに控えていたヘリオトロープだった。
「・・・プレティラ様。時間が」
その声に私と母様はばっと顔を上げる。
母様は壁掛け時計へ。私は、ヘリオトロープへ。
「ヘリオトロープ・・・もしかして、主、って」
呆然と呟く私から、ヘリオトロープは視線を大きく逸らした。
「そうだ。プレティラ様・・・お前の、母親だ」
「どういうこと・・・っ!」
母様の腕に包まれたままヘリオトロープに噛みつこうとしたとき、視線を私に戻した母様が宥めるようにとんとんと手を叩いた。
「あと15分、ってところね」
長い睫毛を伏せそう呟いて、母様はそっと私の体を離した。
ヘリオトロープは気を使ったのか、静かに部屋を出て行った。


