こちらに向かって微笑む兄様の後ろから、ぜいぜいと息切れした従者の少年が走ってきた。
「も、待ってくださいよ、いつも急に走り出さないでくださいって言ってるじゃないです・・・か、っ!?」
兄様の陰に隠れて見えなかったのだろう、近くまで来て私の姿を視界に入れた途端、彼は息を詰まらせた。
絶句する彼に、兄様はにこやかに話しかける。
「ああ、ごめんね?可愛い妹を見つけてしまったものだから」
それに困っているようだったし、ね。とそう言ってちら、とこちらを見る兄様から、私は視線を逸らした。
「・・・はあ・・・まあ、いいです、けど。時間もだいぶ押してますから、どうぞ入ってください。時期国王が遅刻だなんて、笑い事じゃありませんから」
それを見ていた従者の少年は、不本意そうにぼやきながら重厚な造りのドアに手をかけた。
きい、と扉とは不釣り合いに微かな蝶番の音がしただけで、よく手入れが行き届いているのだろう、耳を塞ぎたくなるような音はしない。
扉が開いて、飛び込んできたのは、目が痛くなるほどの、光の洪水。
天井を覆い尽くすかと思えるほど大きくきらびやかなシャンデリア。
これでもかという程にまるで鏡のように磨かれた大理石の床。
権力を見せつけるかのような、分厚い赤絨毯。
全てが、私の存在を拒否していた。
早く、帰れと。
おまえの居場所に。あの、薄暗い塔に、と。


