どこか霞んでいた視界がはっきりする。
良く見えても、見えるのは見たくないものばかりなのに。
目の前にそびえるのは、高い高い塔。
黒々と屹立するその姿は、見るものに畏怖を抱かせる。
ここに帰らなければ行けないのだと思うと、ずしりと心に重石がのったようだった。
物心ついた時からずっといた場所なのに。
きっと、外のセカイの美しさを、知ってしまったから。
自分の身体で、感じ、触れてしまったから。
私は・・・ここに、帰りたくないと、そう思うようになってしまったのだろう。
そっと地面に下ろされて、私は驚いてヘリオトロープの顔を見た。
「え、なんで・・・翔ぶ、んでしょ」
飛ぶ、という意味を感じさせないように、意識してその言葉を言う。
ヘリオトロープは私の顔をちらりと見た後、視線を逸らした。
「いや、階段で登る」
「えっ、でも時間が無いって・・・!」
「いいから。行くぞ」
ヘリオトロープは私の手首を握って駆け出した。
石畳の階段が、私たちの靴音を大きく響かせる。
響き終わる前に次の足を踏む。
急いで、急いで。
時間が来れば魔法が解けてしまう、お姫様のように。
でも、この階段が終わらなければ良い、なんて。息をあげながら、酸素の回らないぼんやりとした頭でそう思ったけれど。
現実はそんなに甘くない。
視線の先に現れた、小さな扉。
私と少年の関係の終わりを、告げようと佇んでいる。


