*
「到着致しました、姫様。」
では、私は、これで。そう言ってリーンは足早に立ち去って行った。
取り残された私は、ちら、と目の前の大きな扉を見上げる。
宝石などで派手に装飾された、天井まで届くほどに大きな扉。
王としての権威を見せつけているようにしか思えなくて、嫌気が差す。
その扉の前には、当然のように出迎えの従者はおらず、どうしたものか、と立ち止まった。
入った瞬間に向けられるであろう視線を想像して、私は微かに身震いする。
怖いわけではない、けれど―――
「・・・アムリィ?そんなところで何してるんだい?」
立ち尽くす背に後ろから声がかかって、私は緩慢な動作で振り向く。
私をアムリィと愛称で呼ぶのは、1人だけだ。
こんこん、と踵を軽快に鳴らして駆け寄ってきた青年は、
私と同じ、白髪。
私と違う、黒い、闇夜のような瞳。
セルティカ王国第一皇子、
カムルレニティス・ラ・レテ・セルティカ。
『レテ』というのは王位を表す称号のようなものであり、彼が王位継承権第一位であることを示している。
容姿端麗、聡明だが、それでいて奢ることなく、誰に対しても友好的で、“籠り姫”にも気を配る。
おおよそ王族には類を見ない人格者で、国民全員に慕われる、次期国王。
カムルレニティスは、私の兄様・・・異母兄だ。


