驚いて顔をあげると、目の前にはしてやったりとでも言いたそうに、口角を上げる斎藤君。
……また口車に乗せられたっ!
『斎藤君のアホ‼︎』
『お前が乗せられやすいだけだろ』
俺に八つ当たりするなと言った斎藤君を一睨みして、辺りを見渡す。
『それで、どっちだ』
私達が今いたのは、右と左に分かれた道のど真ん中で。
斎藤君が私を呼んでいた理由に気づいて、口元に笑みを浮かべる。
やっぱり、斎藤君って優しいんだね。
『私は右‼︎』
『そうか』
私の言葉に軽く返事した斎藤君が右に向かって歩いて行ったのを見て、私も慌てて隣に並ぶ。
『ねー…斎藤君』
『ん⁇』
『斎藤君の家って、私の家と近かったんだねー』
一本道を歩きながら左右を見ると、隙間が見当たらないくらい敷き詰められて建てられている住宅達。
こんなまっすぐの道で、こんなに密集して家が建ってたら、全部の家の人と顔見知りのはずなんだけどな?
だって、私ここに引っ越してきた時、お母さん達と一緒に家一軒ずつ回ったから覚えてるもん。
でも、どうしてもその家の中に、斎藤って書かれた家はなかったような気がするんだけどな。



