『好きだよ』
『……え?』
体にはいた力が、驚きのあまり全て抜けて行く。
厨房に、異様な空気が漂ったのを感じる。
……湊さん、今なんて言ったの?
衝撃的な言葉は、耳に素直に入って来なくて。
しばらくして、その場の静けさと、湊さんの真剣な表情で理解した。
私、湊さんに告白されたんだ……。
湊さんは、まるで私のことなんて見ていないと思っていたし。
それこそ、妹だと思っていた。
私も、湊さんの事はお兄ちゃんとして見ていた訳で。
いきなりの事に、頭がついて行かなかった。
『卑怯なこと言ってるのは分かってる。
昴の事で悩んでる風花につけ込むなんて、そんなことして良い訳ないとも。
だけど、それでも俺は昔から風花が好きだったから』
昴なんかに、簡単に譲りたくない。
そう言った湊さんの目を見て、一瞬呼吸が止まる。
湊さんが卑怯だなんて、そんなはずない。
そんな事言ったら、今揺れている私こそ卑怯者だと思う。
きっと斎藤くんは飛鳥ちゃんと付き合った筈だし。
湊さんに頼って、忘れさせてもらうこともできるけど。
『……ごめんなさい。
私はやっぱり、斎藤くんが好きです』
やっぱり、私は…斎藤くんの隣に居たい。
私の返事を聞いた湊さんの目が、感情に揺れる。
その彷徨うような目で私の目を見て、ふっと小さく笑った。
『分かってたよ。
風花なら、そう言うと思ってた』
そのまま笑みを浮かべた湊さんが、私の頭に優しく手を乗せた。



