「主人は嫌な人なんかじゃないわよ。人一倍優しくて努力家だった。強引なところもなくて、いい人だったの。でも、私はそんな彼が好きでも嫌いでもなかった。結婚生活がいつ終わってもいいように気持ちが寄っていくのを避けてたのね」


気持ちが寄らなかったから子供ができなかったのかも…と言うと、私の方に目を向けて聞いた。


「桃山さんは今の彼とは結婚をしようと思ってる?」


ビクン!と背中を仰け反らした。
お母さんの顔を見つめ、何と答えを出そうかと悩む。


私は厚哉とどうなりたいんだろう。
今一緒に暮らしてるのは、結婚をする為だろうか。


直ぐに答えが出せずに言い淀んだ。
「え…と」と言ったきり、次の言葉が出せないでいると……


「結婚というのは覚悟が要るわよね。好きイコール結婚とは考え難いからわかるわ」


好きでもない人と結婚した人の言葉は胸に響いた。
厚哉との未来しか浮かばない私だけど、その未来はかなり怪しいものだ。


「私が思うに親がどんなに望んで許しても、許されない恋の方が激しくて素敵だと思う。誰からも祝福される恋が一番望ましいと思うけど、万遍なく誰からも認められて許されるものなんてないとも思うの」


私が沈んでるのはやはり厚哉が絡んでると思ったのか、お母さんはそう言って慰めてるように感じた。


「奥が深い話ですね〜」


茶々を入れるチズちゃんに目を向けて笑う。