「私は赤字を払拭する為に18歳でお嫁に行けと言われたの。相手は見も知らない相手で、『絶対に嫌!』と断ったけどダメだった」


何処かで聞いたような話に耳が痛む。過去でも現在でも同じようなことが転がってるんだ。

チズちゃんは「その相手が親会社の社長さんですか?」と尋ねた。


「そうよ。弦ちゃんのお父さん」


子供っぽい言い方をされる人を思い出し、2人で顔を見合わせて微笑む。


「私とあの人は結婚だけは早かったんだけどね、なかなか子供に恵まれなくて周囲をヤキモキさせたの。不妊治療も勧められてしたけど、やっぱりできない時期が長かったわ」


授かったのは結婚から7年も経ってからだと言った。
大変だったんですね…と話すチズちゃんに、お母さんは明るく「そうでも無いわよ」と笑う。


「最初のうちはできなくてラッキーだと思ったの。好きでもない人の子供なんて欲しくないと考えてたから」


無理矢理させられた結婚。
心を通わせたくない人と暮らす毎日は面白くなかった…と言った。


「それでも家に返して貰えることもできないし、世間体もあるから離婚だってできない。ある意味地獄みたいな日々をずっと続けてたの」

「店長のお父さんてそんな嫌な人なんですか?」


嫌味だもんね…と、白瀬さんのことをぽそりと零すチズちゃん。その言葉に曖昧な笑みを返し、視線をお母さんへと走らせた。