「悪かったな」


カチャ…と丼と湯呑みを手にした白瀬さんが洗い場に来た。
それを受け取ろうと顔を向けると、唇の端を持ち上げる。


「俺は勘違いされて嬉しかったけどな」


照れくさそうな顔を見せられると戸惑う。
そんなふうに思いを簡単に口にできる白瀬さんが羨ましい。



「……どっちでもいいです」


投げやり風に言い放った。
どっちでもいいと言うか、どうでもいい気分だ。
店長のお母さんから付き合ってるのかと問われる程、きっと彼との間が近づいてるんだ。


(だから、その分厚哉とは離れてくの…?)


近づきたい相手が離れて、どうでもいい相手は近づく。
思うようにいかない状況の中で、昨夜言われた言葉だけが胸の中で軋む音を奏で続けていた。



『好きにすればいい』


取り返せない言葉のように感じて落ち込む。
店に来た厚哉の気持ちも考えられず、やっぱり重い気持ちのままで仕事を続けた。