「上手くなったなぁ。最初の頃は爪を削ぐか、指を切るかしかできなかったのに」

「それいつ頃の話ですか?過去のことなんて掘り返さないで下さいよ」


言い返すくらいのこともできる様になった。
私の言葉に「偉そうになって」と囁いた白瀬さんは、プイッと背中を向ける。


「明香さんが釣れない態度取るから拗ねちゃったじゃないですか〜」


白瀬さんを指差し、チズちゃんがヒヒ…と笑う。


「古いことばっか持ち出すからでしょう。この店に入ってからの私がどれだけあの人のシゴキに耐えてきたことか…」


そう。これも大事な彼氏の厚哉と一緒に暮らし続ける為。
米研ぎ係と接客から始めて、下準備から調理場までこなせる様に頑張った。


「2人ともお疲れ様。2時になったから上がっていいわよ」


先輩パートの菅さんに言われ、「やった〜!」と手放しで喜ぶチズちゃん。


「お疲れ様でしたー」

「また明日〜!」


2人で手を洗って厨房を後にすると、バッグヤード兼更衣室兼事務所へと向かう。

ロッカーの並ぶ一角が一応の更衣室。そこで油のニオイが染み付いたエプロンとバンダナを外す。


「ウッ、くさい。今日は揚げ物係だったから特に油っぽくなってる気がする」


学校へ行く前にシャワーを浴びようと呟くチズちゃんに、大変ね…と声をかけながら着替えを済ませる。



「…お先に」