「そんな単純なことじゃないよ!」


思わず反論していた。
顔を上げた厚哉の目が少し丸くなって見据える。


「フライヤーには油が入ってるのよ!?下手すると爆発だってし兼ねないのに、店長が気を緩ます訳ないじゃん!」


いつも慎重に火を点けてるのは見てきてる。
今朝だってきっと慎重に火を点けてたと思う。


「厚哉は何も知らないからそんなふうに言えるのよ!」


自分が怖かったからそれも教えたかったのに、彼の言葉を聞いたらまるで店長のことを庇うみたいになってしまった。

冷ややかな視線を向ける厚哉に怒る気持ちをぶつけてしまう。

きゅっと唇を噛むと、視線を逸らせた厚哉の唇から思わぬ言葉が出てきた。



「そんなに心配なら店長のことでも何でも構ってやればいいだろ」


カチャと箸を置いて立とうとする。


「どういう意味!?」


背中を向けようとする厚哉に聞き返した。


「別に。好きにすればいいってこと」


風呂入ってくる…と言い、さっさとキッチンを後にしようとする。


「厚哉!」


名前を呼んでも振り返らなかった。
私は取り残されたままで、唖然と彼の言葉を思い返した。


『好きすればいい』


放り出された様なセリフに気が抜ける。
これまで引き受けると言ってくれた厚哉の言葉だけが頼りだと思ってたのに。



(何よ…。それ…)