直ぐに冷やすこともできなかった白瀬さんの手は痛くて辛そうに見えた。

油のススも付いて汚れていた。治療する時には取らなくちゃいけなくなるから、きっと余計に痛い思いをしてるだろうと思う。


(本当に仕事に関しては鬼なんだから)


苦笑しながらも落ち着いてくる。
お昼の弁当と一緒に飲むつもりで淹れてきたお茶を飲み、もう一息頑張ろう!と厨房へ戻った。


幕の内のおかずを詰め終わった頃、左手に包帯を巻かれた白瀬さんが病院から帰ってきた。

パートのおばさん達からフライヤーの爆発の原因は、廃油の時に開けたコックの閉め方が甘かったせいで、漏れた油がガスの着火元にくっ付いていたからだと聞かされ、「あり得ねぇ話だな」と呆れていた。

私は彼の側に寄ることもできず、そのやり取りをカウンター越しに聞いていた。

視線に気づいたらしい白瀬さんが向きを変え、同じように忙しい思いをしていたチズちゃんには目もくれず、カウンターにいる私の所へやって来る。



「桃」


そう呼ばれて何故だか涙が溢れそうになった。
心配してたのもあったけど、きっと真っ直ぐ私の所へ来たからだと思う。


「大丈夫…ですか?」


声が震えそうなのを隠して聞くと、白瀬さんは「大したことない」と手を見せた。


「医者が解かねぇようにグルグルに巻いただけ。傷自体はガーゼで十分な大きさだ」


心配させて悪かったな…と謝られた。
ううん…と首を横に振りながらもやっぱり胸が落ち着かない。