「ははは、いいよ。10分くらい離れておいで」


菅さんの言葉に項垂れて厨房を出る。
ハーッと息を吐いて、裏口からバックヤードへ向かう。
朝聞いた爆発音からこっち胸のザワつきが治らなくて、どうにかしてそれを鎮めたいと思った。


カタン…とロッカーの扉を開けた時に視界に飛び込んできたのはチョコレート。
出勤時に白瀬さんがくれた物を見て、これを食べて落ち着こうと手に取った。

厚哉がくれたという思い出はその時は頭の隅に落っこちていた。
キャンディー包みになった外装の端を指で引っ張り、解けた捻り目からブラウンカラーのチョコレートが顔を覗かせる。


「頂きます」


声に出して口の中に放り込んだ。
直径2センチ近くありそうなチョコは、直ぐには噛めずに口の中をゴロゴロと転がる。

そのうち奥歯が当たって噛み砕いた。
中にはマカダミアナッツのクリームが入ってたらしく、ほんのりと甘いクルミっぽい香りが広がっていく。


「ほひひい!」


食べたまま声を出したら変になった。
これを白瀬さんが聞いたらきっとまた笑ってることだろう。



(いなくて良かった…)


ホッとしつつも余計な思い出が増えたことを感じた。
このチョコを最初に食べた時のことよりも、今日の方が胸に残ってしまいそうな気がする。


(白瀬さんの手…大丈夫なのかな…)


思うことを変えようと意識した。