今ならまだ傷口だって浅い。
厚哉も私が離れたらもっと自由にいろいろと出来るようになるし、私だって辛い早朝勤務をしなくても良くなる。

別れた方がお互いの為になるんなら、いっそ私から彼に切り出してもいいんだーー。




(……ヤダ。それだけは絶対に言わない……)


途中でダメだと感じる。
厚哉に自分から別れを切り出すなんてことを出来る筈がない。


(どうして?)


自分で自分の胸に問いかける。
つまりはそれが答えだと思う。


(私は厚哉の側に居たい。親に不毛だとか知らないとか言われてもいいから、厚哉と一緒に暮らしたい……)


この感情がプライドだと言われても仕方ない。
私の頭の中には彼との未来しかなくて、それが例えば不幸でも何でも、一緒に居れさえすればいいんだ。


胸の迷いが少しだけ晴れたように思えた。
キッチンの流しに置いた母からの手作りのおかずを目にしてみるか…と立ち上がる。


袋の中には私の好きな物ばかりが入っていた。
タッパーを取り出し、ポテトサラダが入った物を見つけ、何度かそれを真似して作ったことがあるのを思い返した。
その時は、やはり何かが違うと感じてしまった。それ以来、あまり作らなくなった。
他にも色々と入れられてある。どれも全部、普段食べない物ばかりだ。


(あっ…栗の甘煮…)


渋皮ごと煮た栗は大好物だった。秋になると、ご飯の後には必ずそれを食べていた。