「帰って。そんな話したくないから」

「明香!お前はまたそんな我が儘を言うのか!」


父の声に反論してやろうかと口を開いた。
自分のやってることが我が儘だと言うなら父が勝手に進めようとしていたお見合いだって同じだ。

父の後ろで両手を合わせてる母の姿に気づいて言い返すのを止めた。
目線を逸らせて彷徨わせながら「お願いです」と呟いた。


「私、今日から早朝勤務に変わって疲れてるの。また家にも帰るから此処には来ないで」


ズキズキとしてるのは頭だけではない。胸の中にも針が刺さったように痛い。


「明香、これ…」


手渡された袋の中身は聞かなくても分かる。専業主婦の母が作ってくれたお惣菜だ。


「お母さん……ありがとう…」


ぎゅっと握りしめてお礼を言った。
母は「風邪引かないでね」と右腕を摩り、父を促して「帰りましょう」と囁いた。



「…明香」


厚哉とも白瀬さんとも違う声色で呼ばれ、ぎゅっと唇を噛んで顔を見つめる。


「不毛な生活を続けて後から泣くなよ。そんなことになっても俺達は知らないからな」


娘を見捨てるような言葉を吐き捨て去り始める。
母の泣きそうな顔を見て、涙を堪えて手を振った。


私だって本当は両親に祝福された生活を送りたい。
誰にも不安だと悟られず、満面の笑みを浮かべて暮らしていたい。

厚哉にも毎日「お疲れ様」と言ってあげたい。
「無理しないで」とかよりも「一緒に居れて幸せ♡』と伝えたい。