その日の仕事帰り、スーパーに立ち寄ってからアパートへ向かうと、部屋のドア付近に見たことのある背中を見つけてしまった。


(お父さんとお母さん…!)


マズい…と身を翻し、もう少し後で帰ろうと逃げ出す。


「明香!」


母の声が聞こえて立ち止まる。
目を閉じて観念し、はぁ…と小さく息を吐いて振り返った。


「…いらしゃい」


何と言葉を述べればいいのか迷いながらもそう言った。
意を決して2人に近寄り、手持ちのバッグから取り出した鍵を握る。


「何しに来たの?」


両親に会うのは久しぶり。お盆の休日に顔を見せに帰ったきりだ。


「心配だから様子を見に来たのよ」

「あの男は何処だ」


父の太い声に「仕事」と小さく呟く。威圧的にも聞こえる父の声は、今も昔も苦手だ。


「明香、私達あなたを迎えに来たのよ」

「一緒に帰ろう、明香。こんな先の無い生活を続けて一体何になる?」

「ほっといてよ!」


ガチャと鍵のロックを外して叫んだ。
お盆の時も同じ言葉を言われ、ムカついたまま部屋に帰ったのを思い出した。


「私は厚哉と暮らしたいの!家になんて帰っても私にはいいことなんて何も無い!」


父の言うなりになってお見合いさせられるのなんて嫌。
自分のことを引き受けると言ってくれた厚哉に頼って生きてた方がマシ。



(あっ……)


自分の考え方に少しだけ疑問が湧いた。
それを思わないようにして、2人に帰って欲しいと願った。