「…こっちはそれだけお前のことをよく見てるんだよ」


ほんの少しの間を空けて囁かれた。
気持ちの隙間に入り込んだ様なセリフは、突き刺さった棘みたいに抜けない。


「俺だってお前みたいな小娘に本気になるとは思ってなかった。最初は何もできないズブのど素人だとバカにする気持ちしかなかったのに…」


自分のことを笑ってるのか、それとも以前の私のことを思い出したのかは知らないけど、苦笑して背中を凭れた。
黒いジーンズを穿いた足を組み、上半身を起こして片肘を上になった方の膝に乗せる。


「桃の気持ちはよく分かってる。でも、俺だってもう引き下がる気はないねぇから」


前屈みになった姿勢のままで上目を遣うように下から見上げられた。
いつも見下ろされてる人からのアプローチを逸らせずに受け止める。



「…先行く」


私と視線を合わせた人は敢えて何も言わずに立ち上がり、2人分の食器が乗ったトレイを手に休憩スペースを逃げていく。
白瀬さんの去っていく方向も見れず、私の頭の中も胸の奥もずっと軋む様な音が響いていた。



「御飯、御飯〜〜♫」


嬉しそうな声を出してチズちゃんがやって来た。
楽しそうに弾んでパクつく様子を見てると羨ましくて仕様がない。


「舌噛まないでね」


笑いながら姉のような気持ちになった。
もう一度どうして厚哉じゃないとダメなのかを考え直してみよう…と決めた。