「何?」


聞き返すと「別に何でもない」と言うけど、呟かれて終わり…では、私の方が気持ちが悪い。


「隠さないでいいから教えて」


流し場で野菜を洗うフリをしながら聞いた。
困った笑みを浮かべていたチズちゃんは、「呉々も気にしないで下さいよ?」と言い渡した。


「しない、しない」


カラカラと笑い飛ばした。
私の笑いを信じたチズちゃんは、「あのですね…」と近寄ってくる。


「私個人の意見ですが、思うに店長は明香さんのことを相当気に入ってます。いつも見る度に目で追ってるし、何かと言うと直ぐにちょっかいをかけるし」


鋭いというか、実によく見てる気がする。


「そんなことないよ」


チズちゃんの気のせいだと、一応の否定はしたけど。


「いーえ!ほぼガン見に近いです!」


強い言い方に「シー!」と指を立てた。
チズちゃんは肩を竦めて、もう一度「間違いありません」と付け足した。


「明香さんはどうですか?店長と彼氏、比べたりしませんか?」


「ううん」


昨日まではちっとも比べたりしなかった。私にとって白瀬さんは鬼のように厳しい上司だし、料理については私をど素人だと言い、アレコレと難しいことも言われ続けてきた。


「あ〜そりゃ店長見込みナシだわ」

「見込みも何も、私には厚哉がいるから」

「でも、一緒に住んでるってだけで、結婚とかの話は出てないですよね?」

「ないよ。でも、厚哉しかいないの」