「324円です」


おにぎり1個は108円。合計3個だから正解だけどーー。


「………」


ムッとした表情を見せたように思えたのは目の錯覚だろうか。
厚哉はレジに近寄り、500円玉一枚を店長に手渡した。


「ありがとうございます」


お釣りの小銭を返しながら白瀬さんは綺麗なスマイルを見せる。
イケメンだからどんな顔もきまって見えるけど、作られた笑みは更に輝きを増してるような気がする。


「今回は桃を急に借り出してすみません」


「は?」という顔をした厚哉が私の方を見た。
白瀬さんが私のことを「桃」と呼んでるというのを知らなかったせいだ。


「…いえ。仕事だから仕様がないです」


私に向けてた目線を白瀬さんに移し、無愛想な感じで答える厚哉。
こっちは白瀬さんが何か余計なことを言い出さないかと、ヒヤヒヤしながら見守ってた。



「それじゃ」

「ありがとうございます」


心配せずとも何事もなく背中を向けて出ようとする。



「厚哉」


私は思わず彼の後を追った。



「仕事しなよ」


店外でに出たところで振り向かれ、厚哉は冷たそうな声で言い渡した。


「するよ。でも…」


一言でいいから「来てくれてありがとう」って言いたい。
たまたま目が早く覚めただけなのかもしれないけど、それでも来てくれて嬉しかった。


「あの…」

「ほら早く。お客さん来てる」