思いというものは、自分だけが考えても叶わない。
厚哉と触れ合おうとしても、彼にその気がなければ無理だ。



「あの…」


珍しく早く帰ってきた厚哉に遠慮がちに声をかける。
部屋のドアを開けた時から不機嫌そうで、オフィスで何かあったんだろうな…と思った。


「何」


声はそこまで不機嫌そうじゃない。でも雰囲気でわかる。


「ううん。何でもないの」


ただ職場でこんなことがあってね…と話したかっただけなのに、その言葉すらも飲み込まないといけない。
この頃の私はいつもこんな感じで厚哉に対して遠慮する。
厚哉が何処か無理をしているように見えて、それを肌で感じてしまうからだ。



「…美味しい?」


黙々と箸で運ばれていくコロッケを見ながら聞いた。
デイリーキッチンでハンバーグを捏ねていたら急にコロッケを作りたくなった。


「美味いよ」


厚哉は大きな口を開けてポテトコロッケを頬張る。
それを聞いて少しだけホッとする。
触れ合わなくてもいいからこんなゆっくりとした食事時間がもっと持てればいい。


「ねぇ、厚哉」


仕事を変わらないの?と聞いたことは何度かある。
その度に「今は無理」と言われてきてはいるけど……。


「もっと別の仕事を探せばどう?パートなのに残業代も出さないオフィスに勤めなくてもいいんじゃない?」


週の殆どを日付の変わる前くらいまで働かされている。