「出来上がり」


ガスコンロのスイッチを切って振り返る。
キッチンの奥に見える部屋の中では、やっとベッド上での動きが見られだした。



「厚哉…おはよう」


午前7時半前。
あと10分もすれば、私は仕事へ行かなきゃならない。


「うぅ…ん…」


厚哉の瞼は重くてなかなか直ぐには開かない。
情報処理の資格を持つ彼は、日中の殆どをパソコンの画面と睨めっこしているからだ。


「朝ご飯できたよ。今朝は厚哉の好きな物にしたから」


献立を話しているうちに開いてくる。
起き抜けの子供のように見える目がパチパチと瞬きを繰り返している。


「おはよ…」


眠そうな声で呟く。
昨夜は何よ…とボヤいたけど、やっぱり厚哉のことは好きだ。

優しい笑みを浮かべて近づいてくる。
チュッと頬に小さな音を立て、ゆっくりと離れていく。


(好き…)


その言葉を呑み込んで受け止める。
こんな甘い時間を過ごせるのは一瞬で、直ぐにバタバタと動かなければいけなくなる。


「ごめんね。時間だから先に行くよ」


ご飯食べてねと言うと、親指と人差し指で円が作られた。


「行ってらっしゃい……」


欠伸を噛みながら手を振られる。
大丈夫なんだろうか…と思うけど、後を向いてはいられない。

たった5分の距離でも何が起こるか分からない。