間近に迫られる感覚にはやっと慣れたばかりなのに、その胸の内も知らない厚哉はニヤリと笑って告げた。


「この部屋の近くにデイリーキッチンがあるだろ?そこでパートを募集してたんだけどね」


面接に行ってみれば?…と、平気な顔をしている。


「面接…」


その言葉には嫌な思い出しかない。


「うん、今なら二つ返事で雇ってもらえると思うんだよ」


決まり決まり…と勝手に話を打ち切り、自分が以前使いかけたという履歴書まで差し出された。


「善は急げだよ」


いや、あんたのやってる事は善行でも何でもない…という言葉すらも口に出せず、オロオロとしながら履歴書に文字を埋め、一緒に撮った写真から顔だけを切り抜いて貼り、今日だけは一緒に行ってあげる…という言葉に唆され、住み始めたばかりのアパートから徒歩5分で着くデイリーキッチン(ただの弁当屋)へと足を運んだ。


『早朝パート募集』


早朝と言うからには当然朝は早い。
張り紙に書かれてある文字を見ると、「午前6時から午後1時まで」とある。


(げっ!)


毎朝6時までに起きて仕事へ行くとかあり得ない。
これは絶対にできないと言いたいけど、厚哉は隣で「ふぅん」と唸る。


「徒歩5分の距離だし楽勝だよね」


だったらあんたがこの店で働けばいい…という思いすらも言えず、顔を引き攣らせながら「う…うん」と返事した。