連絡さえしてくれればどちらも直ぐに出来るようにはしておく。
でも、私も働いているから…と言い、厚哉は絶対に電話をかけてはこない。


「俺のことは放っていいから自分のことを優先しろよ」


冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プシュッとプルタブを押し込んで呟く。


「でも…」

「いいから」


ゴクゴク…と一気飲みをしだす厚哉には、何も言うなという気配すら感じ取れる。



「……じゃあお風呂入れてくる」


仕様がなくそう言って立ち上がった。
こんな会話も少ない生活をしたくて、一緒に住みだした訳じゃないのに。



「何よ」


ドボドボ…と蛇口から溢れるお湯を眺めながらのボヤキ。
お風呂場で喋る分には厚哉の耳にも届かない。


「前は帰ってきたらチューくらいしてくれたのに、この最近はそれもしないし」


疲れてるんだというのは知ってる。
ブラックな企業にパートとして勤めているのに、お金にもならない時間外を強制されているんだ。



「だったら違うところで働けばいいのに」


コロコロ転職を繰り返しても同じだと言い、時給だけはいい今のオフィスにしがみ付いている厚哉。

その結果がこの不規則な勤務。
こっちはいつか体を壊すんじゃないかと心配ばかりしているのに、それは「母親の役目だ」と言われた。


「親は1人いればいいよ。明香にはそんな言葉を言って欲しくない」