「店長のご両親はお見合い結婚だったそうですね。店長にもお見合いとか勧めたりしないんですか?」


自分とは違う世界に住む人達のことを想像できなかった。
お見合いを勧められたことがあるとして、相手はどんなお金持ちだろうか。


「別に。親は何も勧めてこないけど」


周りが喧しいけどな…と呟き、「でも、それも無視してる」と答える。
一度くらい会ったことはないのかと聞くと、「ねぇな」と言葉短く答えられた。


「他人に仕組まれた相手を好きになったりできねぇだろ」


ピクンと背筋が伸びる。
その思いは厚哉と暮らし出す前に持っていたものだ。


「結婚ってのは相手のことが好きで必要だからするんだろ?今を楽しむだけの恋なら結婚なんてしなくてもいいしな」


その言葉の意味を深く追いもせずに「はぁ」と頷き返した。
白瀬さんはご飯を食べ終えて、目線をこっちに向けた。


「桃はあいつと結婚しねぇのか?」


あいつと言われて、店に来た厚哉のことを思い出した。
『好きにすればいい』という言葉が頭の隅に残っていて、何も答えずに俯く。

白瀬さんは食後のお茶を飲んで息を吐いた。
答えの返せない私の方を見ているようで、くるっと背中を向けた。


「帰ります」


厚哉との今後は白瀬さんに話すようなことじゃない。
先ずは自分の気持ちを洗いざらい彼に打ち明けてからだと思う。



「……待て!」